9月の阿蘇火山地震観測実習で、本堂のトンネルに 広帯域地震計を設置しました。実習の後も、その地震計はずっと 地震動をとり続けています。
10月23日現地時間13時41分、 トルコ東部で マグニチュードMw7.2の地震が起きました。 多くの建物が倒壊して、数百人にのぼる方が亡くなったと伝えられています。
この地震は、 10月23日10時41分22.5秒(世界標準時)(日本時間では23日19時41分22.5秒)に 発生しました。 規模(マグニチュード)は、 阪神淡路大震災をもたらした 1995年兵庫県南部地震(Mw6.9)より大きいです。
本堂の広帯域地震計は、この地震からのP波をきれいに記録しました。 4回の演習で、そのP波の波形("かたち")をモデリングする(計算機で つくる)ことで、 地震の断層やずれの向き、断層のずれの継続時間や時間関数、震源の深さ などを推測、考察しましょう。
トルコは地震が多く起こっている国です。 トルコの東部には、 ユーラシアプレート、アラビアプレート、アナトリアプレート の3つのプレートがあります。 北進するアラビアプレートがユーラシアプレートに衝突している 地域で、多くの断層帯が存在して、複雑に地震が起こっています。 今回の地震はこの衝突地帯で起こりました。 単純なプレートの境界の地震ではありません。 また、北進するアラビアプレートによって西に押し出されるように 動いているのが、西側にあるアナトリアプレートです。 このプレートの北側はユーラシアプレートと接しています。 そのプレート境界は大きな地震を起こしてきたことで有名な北アナトリア断層 (図のNAF)です。
トルコ東部のテクトニクス(東京大学地震研究所HPから引用;原図はAngus et al., 2006)。
上側がユーラシアプレートにあたる。赤星が今回の地震の位置。
本堂の震央距離は、 69° です。 震央距離が 30-100°の範囲を、地震学では「遠地(teleseismic distance)」と 呼んでいます。 この範囲のP波の波形は、 伝播するときに上部マントルやマントル遷移層の複雑な構造の影響を 受けにくいために、震源で起こったことを推測するときによく使用します。
地球の内部の速度構造を仮定すると、P波などの地震波が 伝播するにかかる時間を推測することができます。 "iasp91"という世界標準1次元速度モデルを用いると、 P波は本堂に662.4秒かかって到達し、 S波は本堂に1204.7秒かかって到達すると予想されます。 また、あわせて、 本堂に伝播するP波が、震源から鉛直下向きから上方に 20°の角度で射出したP波であることも推測されます。 (この角度を射出角take-off angleと呼んでいます)
地震の震源からみた本堂の方向(方位 azimuth)は、 65°、本堂からみた地震の震源の方向(逆方位 back-azimuth)は、-57°です。 いずれも、北をゼロとして時計回りを正に測られています。
★が地震、太い矢印が波の伝播方向、ihが射出角、φsが方位。
地動を見るためには、取得されたデータから、地震計の応答関数を 取り除く必要があります。 今回は、この作業を、SACというソフトウェアを使って行います。
阿蘇のデータがあるサーバにログインして、
作業を行ってください。
作業の詳細はココ
サーバへのログインやwin形式のデータを扱うコマンド等は、
第1回目の演習のメモにあります。
ココ
データの扱い方がわかったら、P波予想時刻から15分間ぐらいの長いデータも、 画面に表示してみてください。 変位波形に変換する必要はありません。 P波だけでなく、S波他のいろいろな波が来ているようすを観察してください。
本堂に加えて、今回は、更に海外の2つの観測点で記録されたP波の変位波形も、 参考にすることにします。
◇観測点 PALK
スリランカ
震央距離 46°
方位 123°
P波の射出角 25°
◇観測点 HRV
アメリカ・マサチューセッツ洲
震央距離 80°
方位 -43°
P波の射出角 17°
各々の観測点について、 SAC形式の上下動データ(PALK.BHZ, HRV.BHZ)と 地震計の特性のファイル(PALK.BHZ.pz, HRV.BHZ.pz)が 阿蘇のデータがあるサーバーの /tmp/kuge の下にあります。
本堂で行ったことを参考にして、同じように、 各観測点のP波の変位波形を作って、その波形の特徴をみてください。
遠地P波の変位波形(変位の時間関数)は、波線理論をもとに、
で、近似的に計算できます。
ここで、
S(t)は地震の断層運動によって決まる時間関数、
E(t)は地下構造によって生じる種々の波の到着を与える時間関数
(ここでは、直達P波とともに、震源そばの地表での
反射波や変換波を与える時間関数)、
P(t)は震源から観測点まで伝わる時の非弾性の効果を与える時間関数。
演習では、これらを計算するプログラムを作成します。
内容を説明するpdfノートはココ
【1-1】 断層運動から出るP波とS波の放射特性を計算する
断層の走向、傾斜角、すべり角(すべり方向)、P波の射出角と方位の5つの 変数を与えたときに、P波放射特性(Rp)を計算するプログラムをつくる。
プログラムの動作確認として、
(1) 横ずれ断層(走向90°、傾斜角90°、すべり角0°)で射出角が45°のとき、 地震波の伝播する方位を0から360°まで増やしていった場合の P波放射特性(Rp)をgnuplotで図にしてみる。
(2) 逆断層(走向0°、傾斜角45°、すべり角90°)で 地震波の伝播する方位が90°のとき、 射出角を0から180°まで増やしていった場合のP波放射特性(Rp)を gnuplotで図にしてみる。
P波が出来たら、SV波放射特性(Rsv)も作成して、同じように確認して。
【1-2】地表での反射波(pP)と変換波(sP)を考慮して、E(t)を作成する
E(t)をgnuplotで図にして、出てくる結果を確認。
【2-1】震源の時間関数S(t)を計算するプログラムをつくり、動作を確認
S(t)をgnuplotで図にして、出てくる結果を確認。
【2-2】出来たS(t)を計算するプログラムを使って、E(t)*S(t)を計算させる
E(t)*S(t)をgnuplotで図にして、出てくる結果を確認。
時間の余裕にあわせて、以下2つから、どちらかを選択して行う。
◇時間に余裕のある人(3回目の演習や4回目開始時にこの項目に達した人)
【ステップ2】の出来上がりの波形にフーリエ変換を行って、 周波数領域の中で、非弾性減衰の効果を掛け、 結果を逆フーリエ変換で時間領域に戻すように、 【ステップ2】で作ったプログラムを改良してください。 t*は1秒を使ってください。
フーリエ変換のプログラムはfcoolr.f
メインプログラムから
integer:: n
complex:: f(2048)
real:: rind
call fcoolr( n, f, rind )
のようにして呼び出すことができます。
ここで、配列fに含まれるデータは(2のn乗)個。 フーリエ変換ではrind=-1、逆フーリエ変換ではrind=1となります。 フーリエ変換のとき、変換された結果は、(2のn乗)倍になっていますので、 注意してください。
コンパイルの仕方は
gfortran メインプログラムのファイル名 fcoolr.f
です。
逆フーリエ変換した後、実数部にだけデータがある(虚数部がゼロ)ためには、 周波数領域の複素データが、折り返し点をはさんで、 後半部と前半部で共役になっていることが必要です。 非弾性減衰を前半部の複素データに作用させ、 後半部をその共役な値で埋めることにより、これを実現します。
例えば、以下のような周波数領域で16の複素データをもつ場合、 9つ目のデータが折り返し点になります。 この折り返し点をはさんで前後のデータを共役にします。
上のFFTのプログラムでは、周波数領域でi番目の複素データ(前半部)は、
(i-1)/データ長
の周波数に対応します。
(ここで、データ長は、時間ステップ(△t)かける2のn乗です。)
◇時間に余裕のない人
非弾性減衰の応答関数として、デルタ関数に対する t*=1秒の場合にえられる時間関数(時間ステップ△t=0.2秒)を ココ におきました。このデータをプログラムで読み込み、 時間領域で畳み込み積分して、非弾性減衰の効果をいれてください。
(2) その結果をもとにしながら、トルコ東部の地震において、 断層の走向、傾斜角、すべり角、ずれの継続時間、 深さがどのぐらいの値であるかを、 計算波形と観測波形の比較から推測する。 どのパラメタが決まりやすいのか、決まりにくいのかも考える。
2011年12月16日(金)締め切り
Wordファイルかpdfファイルにまとめたものを久家宛にメールで送ってください。
メールの件名(サブジェクト)を「DCレポート」にしてください。
レポート内には、名前を忘れずにいれてください。