平成19年度 集中講義 「不均質媒質中における地震波動伝播理論」
講師: 古村 孝志(東京大学地震研究所・准教授)

日時及び場所
2007年12月17日(月)3限・4限  2号館 第二講義室
     18日(火)1限・2限  4号館 1階会議室
          3限   6号館  401号室
          15時〜17時    〃  (講演会、以下参照)
     19日(水)1限・2限  4号館 1階会議室
          3限 4号館  地下共同会議室
 

特別講演会
2007年12月18日(火) 15時ー17時 理学部6号館401
題名:「地震と津波の連成シミュレーション:1896年明治三陸津波地震」

 海の巨大地震に伴う強震動と津波発生の評価のために、弾性体の方程式と流体の式 の計算を結合した「地震―津波連成シミュレーション法」を開発した。本計算では、 まず大地震の断層運動により生まれる地震動と永久変位(海底地殻変動)を3次元運 動方程式の計算から求め、次に計算結果を用いて、海水面の上昇(津波発生)と伝播 を3次元ナビエ・ストークス式の計算から評価する。これにより、複雑な地下構造が 作り出す海底面の異常隆起現象や、深い水深と複雑な海底地形を伝播する津波を高精 度に予測に加え、共通の震源モデルと地下構造モデルを用いて強震動と津波を同時に 議論することができるようになった。

 1896年明治三陸地震では、揺れは震度4程度以下に過ぎなかった「ゆっくりとした 揺れ」が何分も続き、そして30mを超える大津波が三陸海岸に押し寄せたことが中央 気象台の報告に記されている。地震の規模に対して、津波が異常に大きな「津波地震」 の原因として、この地震の断層すべり時間が100秒を超えるような「スロースリップ」 であった可能性も指摘されている。近年の海洋構造探査の結果を見ると、地震が発生 した日本海溝付近のプレート上面には、石炭紀および第三紀以新の柔らかい堆積層が 5〜10km以上の厚さで覆っている。そしてシミュレーション結果から、この堆積層が 地震時の異常海底隆起と大津波の発生原因に大きく関係していることが示された。堆 積層は同時に短周期の地震動を強く減衰させ震度を小さくするほか、周期10〜15秒の やや長周期地震動(表面波)を強く励起させる働きも確認できた。つまり、明治三陸 地震で観測された「ゆっくりとした揺れ」はこうして生まれた長周期の表面波であっ たことが理解できる。明治三陸大津波はスロースリップのような特別な断層運動を考 えなくとも、M7規模の大地震で一般的に発生する可能性がある。

(Last modified: 2007-11-21)