課題演習DC「地球の鼓動を探る」:モデリング編
◆◇◆遠地P波波形のモデリング◆◇◆
2008年12月1日〜1月7日(4回)久家慶子担当
(Last Modified: December 8, 2008)

9月はじめの阿蘇火山地震観測実習で、本堂のトンネルに 広帯域地震計を設置しました。実習の後も、その地震計はずっと 地震動をとり続けています。データは、刻々と、 京都のPCに送られています。

9月29日15時19分32.0秒(世界標準時)(日本時間では30日00時19分32.0秒)に、 ニュージーランドのKermadec諸島で、マグニチュードMw7.0の地震が 発生しました。今年6月に起きた岩手・宮城内陸地震(Mw6.8)より、 少し大きな地震です。

皆さんが本堂に設置した広帯域地震計は、この地震からのP波をきれいに 記録しました。

今回の4回の演習では、そのP波の波形("かたち")をモデリングする(計算機上で 復元する)ことで、 地震の起こり方、断層の向き、断層のずれの継続時間、震源の深さ を推測します。

●Kermadec地震の概要と阿蘇・本堂との位置関係

アメリカ地質調査所・地震情報センター(USGS NEIC)によって決められている 地震の震源の位置は、
南緯 29.676° 西経 177.704°
です。

震源があるところでは、太平洋プレートが西に向かって オーストラリアプレートの下に沈み込もうとしています。 Kermadec地震は、太平洋プレートとオーストラリアプレートのプレート境界 の地震と思われます。

本堂の震央距離は、 79° です。 震央距離が 30-100°の範囲を、地震学では「遠地(teleseismic distance)」と 呼んでいます。 この範囲のP波の波形は、上部マントルや遷移層の複雑な構造の影響を受けにくく、 震源で起こったことを推測するときによく使用します。

地球の内部の速度構造を仮定すると、P波などの地震波が 伝播するにかかる時間を推測することができます。 "iasp91"という世界標準1次元速度モデルを用いると、 P波は本堂に719.6秒かかって到達し、 S波は本堂に1315.8秒かかって到達すると予想されます。 また、あわせて、 本堂に伝播するP波が、震源から鉛直下向きから上方に 23°の角度で射出したP波であることも推測されます。 (この角度を射出角take-off angleと呼んでいます)

地震の震源からみた本堂の方向(方位 azimuth)は、 -42°、本堂からみた地震の震源の方向(逆方位 back-azimuth)は、136°です。 いずれも、北をゼロとして時計回りを正に測られています。

★が地震、太い矢印が波の伝播方向、ihが射出角、φsが方位。

●観測波形を準備する:本堂で記録されたP波の変位波形をつくる

地震計で記録されたデータは、地動そのものではありません。 地震計固有の応答関数が含まれたデータになっています。
これらの説明はココ

地動を見るためには、取得されたデータから、地震計の応答関数を 取り除く必要があります。 今回は、この作業を、SACというソフトウェアを使って行います。

阿蘇のデータがあるサーバにログインして、 作業を行ってください。
作業の詳細はココ

また、サーバへのログインやwin形式のデータを扱うコマンド等は、 第1回目の演習のメモにあります。
ココ

●計算(理論)波形をつくる

【演習1】断層運動から出るP波の振幅特性(P波放射特性)を計算する

断層の走向、傾斜角、すべり角(すべり方向)、P波の射出角と方位の5つの 変数を与えたときに、P波放射特性(Rp)を計算するプログラムをつくる。

この関係式はココ

プログラムの動作確認として、

(1) 横ずれ断層(走向90°、傾斜角90°、すべり角0°)で射出角が45°のとき、 地震波の伝播する方位を0から360°まで増やしていった場合の P波放射特性(Rp)をgnuplotで図にしてみる。

(2) 逆断層(走向0°、傾斜角45°、すべり角90°)で 地震波の伝播する方位が90°のとき、 射出角を0から180°まで増やしていった場合のP波放射特性(Rp)を gnuplotで図にしてみる。

P波が出来たら、SV波放射特性も同じように確認して。

【演習2】均質無限媒質中のP波(直達P波)の波形をつくる

この原理は上の放射特性のところに含まれている (ココ)。

ここでは、 畳み込み積分(convolution)を使いながら波形をつくってみる。 説明と手順は (ココ)。

【演習3】地表の効果として地表での反射波(pP)と変換波(sP)を加える

この説明はココ

【演習4】伝播の効果として非弾性減衰の効果を加える

この説明はココ

◇時間に余裕のある人(3回目の演習や4回目開始時にこの項目に達した人)

【演習3】の出来上がりの波形にフーリエ変換を行って、 周波数領域の中で、非弾性減衰の効果を掛け、 結果を逆フーリエ変換で時間領域に戻すように、 【演習3】で作ったプログラムを改良してください。 t*は1秒を使ってください。

フーリエ変換のプログラムはfcoolr.f

メインプログラムから

integer:: n
complex:: f(2048)
real:: rind

call fcoolr( n, f, rind )

のようにして呼び出すことができます。

ここで、配列fに含まれるデータは(2のn乗)個。 フーリエ変換ではrind=-1、逆フーリエ変換ではrind=1となります。 フーリエ変換のとき、変換された結果は、(2のn乗)倍になっていますので、 注意してください。

コンパイルの仕方は
gfortran メインプログラムのファイル名 fcoorl.f
です。

逆フーリエ変換した後、実数部にだけデータがある(虚数部がゼロ)ためには、 周波数領域の複素データが、折り返し点をはさんで、 後半部と前半部で共役になっていることが必要です。 非弾性減衰を前半部の複素データに作用させ、 後半部をその共役な値で埋めることにより、これを実現します。

例えば、以下のような周波数領域で16の複素データをもつ場合、 9つ目のデータが折り返し点になります。 この折り返し点をはさんで前後のデータを共役にします。

上のFFTのプログラムでは、周波数領域でi番目の複素データ(前半部)は、
(i-1)/データ長
の周波数に対応します。
(ここで、データ長は、時間ステップ(△t)かける2のn乗です。)

◇時間に余裕のない人

非弾性減衰の応答関数として、デルタ関数に対する t*=1秒の場合にえられる時間関数(時間ステップ△t=0.2秒)を ココ におきました。このデータをプログラムで読み込み、 時間領域で畳み込み積分して、非弾性減衰の効果をいれてください。

●モデリングの課題

(1) 断層の走向、傾斜角、すべり角、ずれの継続時間、深さを変えると、 計算波形はどのように変化するかを調べる。

(2) その結果をもとにしながら、断層の走向、傾斜角、すべり角、ずれの継続時間、 深さをどのように変えると、観測波形と計算波形が似るようになるかを調べる。

(3) もし同じ位置・深さで断層運動ではなく爆発が起こった場合、 どのような波形が予想されるかを調べる。

●レポート

モデリングの課題(1)〜(3)についてまとめ、考察を加える。
(全部できないときには、出来たところまででも提出)

2009年1月22日(木)締め切り

Wordファイルかpdfファイルにまとめたものを久家宛にメールで送るか (メールの件名(サブジェクト)を「DCレポート」にすること)、 あるいは理2号館514号室前の封筒へ提出。
レポートには、名前を忘れずにいれること。