課題演習DC「地球の鼓動を探る」:モデリング編
◆◇◆遠地P波波形のモデリング◆◇◆
2012年10月15日〜11月5日(4回)久家慶子担当
(Last Modified: October 29, 2012)

【2012年10月29日記】
2012年10月28日にカナダ西海岸沖でMw7.7の地震が起きました。 以下にはフィリピンの東方沖の地震について記してありますが、 演習には、カナダ西岸の地震を調べてくれてもよいです。 カナダ西岸の地震の概要と本堂との位置関係は ココ

8月の阿蘇火山地震観測実習で、本堂のトンネルに 広帯域地震計を設置しました。実習の後も、その地震計はずっと 地震動をとり続けています。

8月31日現地時間20時47分、 フィリピンの東沖合でマグニチュードMw7.6の地震が起きました。 この地震の発生により、太平洋津波警報センター(ホノルル)は 一時、フィリピン、インドネシアなどに津波警報を発令しました。 日本でも、気象庁が、東北から九州にかけての太平洋沿岸と沖縄などに 津波注意報をだしましたが、1日午前0時過ぎに解除しました。

この地震は、 8月31日12時47分33.4秒(世界標準時)(日本時間では31日21時47分33.4秒)に 発生しました。 規模(マグニチュード)は、 奥尻島に大きな津波の被害を及ぼした 1993年北海道南西沖地震(Mw7.7)より少し小さいです。

本堂の広帯域地震計は、この地震からのP波を記録しました。 4回の演習で、そのP波の波形("かたち")をモデリングする(計算機で つくる)ことで、 地震の断層やずれの向き、断層のずれの継続時間や時間関数、震源の深さ などを推測、考察しましょう。

●フィリピン東方沖の地震の概要と阿蘇・本堂との位置関係

アメリカ地質調査所・地震情報センター(USGS NEIC)によって決められている 地震の震源の位置は、
北緯 10.82° 東経 126.63°
です。

フィリピンは地震が多く起こっている国で、 とても複雑なテクトニクスをしています。 南部では、東側のフィリピン海溝からフィリピン海プレートが西向きに沈み込む一方、 北部では、西側のマニラ海溝からユーラシアプレートが東向きに沈み込んでいます。 フィリピン諸島の中央には、左横ずれ断層のフィリピン断層が 南北にはしっています。 今回の地震は、フィリピン海プレートが沈み込む、 フィリピン海溝のプレート境界付近で発生したと考えられます。


フィリピンのテクトニクス (http://volcano.oregonstate.edu/vwdocs/volc_images/southeast_asia/philippines/tectonics.html から引用)。

本堂の震央距離は、 22.3° です。 震央距離が 30-100°の範囲を、地震学では「遠地(teleseismic distance)」と 呼んでいます。 この範囲のP波の波形は、 地球内部を伝播するときに上部マントルやマントル遷移層の 複雑な部分の構造の影響を受けにくいために、 地震の震源域で起こったことを推測するときによく使用します。 今回は、この遠地よりも短い距離で記録がとられているので、 P波の波形が遷移層や他の経路から来る波の影響を受けている 可能性があります。 他の観測点の波形とも比較しながら、少し注意深く使うことにします。

地球の内部の速度構造を仮定すると、P波などの地震波が 伝播するにかかる時間を推測することができます。 "ak135"という世界標準1次元速度モデルを用いると、 P波は本堂に295.1秒かかって到達し、 S波は本堂に539.0秒かかって到達すると予想されます。 また、あわせて、 本堂に伝播するP波が、震源から鉛直下向きから上方に 39°の角度で射出したP波であることも推測されます。 (この角度を射出角take-off angleと呼んでいます)

また、遷移層での急激な速度変化によって 少し異なった経路を通った複数のP波の到来が予想され、 その走時(震源から観測点までの所要時間) は、ak135モデルから、295.1, 296.7, 297.9秒と予想されています。 更に、 PP波の走時は318.1秒、PPP波の走時は326.0, 387.8, 387.9秒 と予想されています。

なお、地震の震源からみた本堂の方向(方位 azimuth)は、 10°、本堂からみた地震の震源の方向(逆方位 back-azimuth)は、-168°です。 いずれも、北をゼロとして時計回りを正に測られています。

★が地震、太い矢印が波の伝播方向、ihが射出角、φsが方位。

●演習1● 観測波形をみる
本堂で記録されたP波の変位波形をみる

地震計で記録されたデータは、地動そのものではありません。 地震計固有の応答関数が含まれたデータになっています。
これらの説明はココ

地動を見るためには、取得されたデータから、地震計の応答関数を 取り除く必要があります。 今回は、この作業を、SACというソフトウェアを使って行います。

阿蘇のデータがあるサーバにログインして、 作業を行ってください。
作業の詳細はココ

サーバへのログインやwin形式のデータを扱うコマンド等は、 第1回目の演習のメモにあります。
ココ

方位が0〜20°にある、他の観測点で記録されたP波の変位波形 ココ と比較して、波形のどの特徴が安定してみえているかを みます。その部分の特徴をモデリングします。
(参考に、変位に変換する前のもとのデータの波形は ココ

●演習2● 計算(理論)波形をつくる

遠地P波の変位波形(変位の時間関数)は、波線理論をもとに、

で、近似的に計算できます。

ここで、
S(t)は地震の断層運動によって決まる時間関数、
E(t)は地下構造によって生じる種々の波の到着を与える時間関数 (ここでは、直達P波とともに、震源そばの地表での 反射波や変換波を与える時間関数)、
P(t)は震源から観測点まで伝わる時の非弾性の効果を与える時間関数。

演習では、これらを計算するプログラムを作成します。

内容を説明するpdfノートはココ

【ステップ1】構造による時間関数E(t)を作る

【1-1】 断層運動から出るP波とS波の放射特性を計算する

断層の走向、傾斜角、すべり角(すべり方向)、P波の射出角と方位の5つの 変数を与えたときに、P波放射特性(Rp)を計算するプログラムをつくる。

プログラムの動作確認として、

(1) 横ずれ断層(走向90°、傾斜角90°、すべり角0°)で射出角が45°のとき、 地震波の伝播する方位を0から360°まで増やしていった場合の P波放射特性(Rp)をgnuplotで図にしてみる。

(2) 逆断層(走向0°、傾斜角45°、すべり角90°)で 地震波の伝播する方位が90°のとき、 射出角を0から180°まで増やしていった場合のP波放射特性(Rp)を gnuplotで図にしてみる。

P波が出来たら、SV波放射特性(Rsv)も作成して、同じように確認して。

【1-2】地表での反射波(pP)と変換波(sP)を考慮して、E(t)を作成する

E(t)をgnuplotで図にして、出てくる結果を確認。

【ステップ2】震源の時間関数S(t)を作り、本堂でのE(t)*S(t)を計算する

【2-1】震源の時間関数S(t)を計算するプログラムをつくり、動作を確認

S(t)をgnuplotで図にして、出てくる結果を確認。

【2-2】出来たS(t)を計算するプログラムを使って、E(t)*S(t)を計算させる

E(t)*S(t)をgnuplotで図にして、出てくる結果を確認。

【ステップ3】非弾性減衰の効果P(t)をいれる

時間の余裕にあわせて、以下2つから、どちらかを選択して行う。

◇時間に余裕のある人(3回目の演習や4回目開始時にこの項目に達した人)

【ステップ2】の出来上がりの波形にフーリエ変換を行って、 周波数領域の中で、非弾性減衰の効果を掛け、 結果を逆フーリエ変換で時間領域に戻すように、 【ステップ2】で作ったプログラムを改良してください。 t*は1秒を使ってください。

フーリエ変換のプログラムはfcoolr.f

メインプログラムから

integer:: n
complex:: f(2048)
real:: rind

call fcoolr( n, f, rind )

のようにして呼び出すことができます。

ここで、配列fに含まれるデータは(2のn乗)個。 フーリエ変換ではrind=-1、逆フーリエ変換ではrind=1となります。 フーリエ変換のとき、変換された結果は、(2のn乗)倍になっていますので、 注意してください。

コンパイルの仕方は
gfortran メインプログラムのファイル名 fcoolr.f
です。

逆フーリエ変換した後、実数部にだけデータがある(虚数部がゼロ)ためには、 周波数領域の複素データが、折り返し点をはさんで、 後半部と前半部で共役になっていることが必要です。 非弾性減衰を前半部の複素データに作用させ、 後半部をその共役な値で埋めることにより、これを実現します。

例えば、以下のような周波数領域で16の複素データをもつ場合、 9つ目のデータが折り返し点になります。 この折り返し点をはさんで前後のデータを共役にします。

上のFFTのプログラムでは、周波数領域でi番目の複素データ(前半部)は、
(i-1)/データ長
の周波数に対応します。
(ここで、データ長は、時間ステップ(△t)かける2のn乗です。)

◇時間に余裕のない人

非弾性減衰の応答関数として、デルタ関数に対する t*=1秒の場合にえられる時間関数(時間ステップ△t=0.2秒)を ココ におきました。このデータをプログラムで読み込み、 時間領域で畳み込み積分して、非弾性減衰の効果をいれてください。

●モデリングの課題●

(1) 断層の走向、傾斜角、すべり角、ずれの継続時間、深さを変えると、 本堂において計算波形がどのように変化するかを調べる。

(2) その結果をもとにしながら、フィリピン東方沖の地震において、 断層の走向、傾斜角、すべり角、ずれの継続時間、 深さがどのぐらいの値であるかを、 計算波形と観測波形の比較から推測する。 どのパラメタが決まりやすいのか、決まりにくいのかも考える。

●レポート●

モデリングの課題(1)〜(2)についてまとめ、考察を加える。
(全部できないときには、出来たところまででも提出)

2012年11月20日(火)締め切り

Wordファイルかpdfファイルにまとめたものを久家宛にメールで送ってください。 メールの件名(サブジェクト)を「DCレポート」にしてください。
レポート内には、名前を忘れずにいれてください。